日本応用数理学会2022年度年会
「数論アルゴリズムとその応用」(JANT)セッション

日時

2022年9月10日(土) 13:20-17:40

会場

オンライン開催(セミ・ハイブリッド形式)

参加費

日本応用数理学会2022年度年会参照

プログラム

各講演20分(質疑応答時間を含む)
○印は登壇者

数論アルゴリズムとその応用(1)[9月10日 13:20-14:40 E会場]

  1. 円分多項式の mod p での既約分解
    ○ 福田隆 日本大学生産工学部
    例えば, 実アーベル体の類群計算では, 円分多項式 Phi_n(x) を mod p で既約分解する必要があるが, Cantor-Zassenhaus に代表される汎用アルゴリズムでは n が大きくなるにつれ, 計算時間が無視できなくなる. 本講演では, 任意の自然数 n と, n を割らない奇素数 p に対して, ガウス周期を利用して Phi_n(x) を高速に既約分解するアルゴリズムを提案したい.
  2. 外積代数における Gröbner 基底計算アルゴリズムの計算量評価と実装報告
    〇 加藤拓 東京大学大学院情報理工学系研究科, 工藤桃成 東京大学大学院情報理工学系研究科, 坂田康亮 東京大学大学院情報理工学系研究科, 横山和弘 立教大学大学院理学研究科
    グレブナー基底の理論は非可換代数や加群などにも拡張され, 特に外積代数上のグレブナー基底計算は代数幾何への応用に 用いられる.外積代数におけるグレブナー基底の理論は Aramova-Herzog-HibiやStokesらにより整備されているが, そのアルゴリズムの実装や高速化については未解決な問題が残されており,特に計算量評価は理論的にも実験的にもなされていない. 本講演では,外積代数におけるグレブナー基底計算の実装と, 実装により得られた実験的な計算量評価を報告する.
  3. 数論電卓NZMATHの現状と展望
    〇 田中覚 東京都立産業技術高等専門学校, 中村憲 東京都立大学
    NZMATHはPythonで記述された数論計算のソフトウェアである. リリース当初から数論で頻繁に用いられる行列・多項式と いった基本的なデータ構造や, 虚二次体を含む数体, 有限体や 楕円曲線などの様々な数論計算に用いられていたが, Python 2 専用という制約があった. 今回, 4月に公開したバージョン3で Python 3への対応を果たし, 新ホームページと新メイリング リストを作成したことを報告する. また, 初歩から数論アルゴリズム を学ぶ人のために開始するプロジェクト『NZMATHで「初等整数論 講義」(高木貞治)を書く』の紹介と今後の展望を述べる.
  4. 3次元数独解の同値な条件と作用素
    〇 足立智子 静岡理工科大学
    位数n^2の数独解とは, サイズn^2×n^2の方陣に, 1, 2, ..., n^2の数字 (シンボル) を入れ, どの縦の列, 横の行にもすべての シンボルがちょうど1 回ずつ出現し, サイズn×n のn^2 個の 小方陣 (ブロック) に全てのシンボルがちょうど1 回ずつ出現する ように配置したものである. n=3の場合は通常の数独パズルの解 (完成形)である. 数独解を同値な数独解に移す作用素の集合は群 を成し数独群と呼ばれる. 通常, 数独は2次元で考えるが, Lambert and Whitlaock (2010) は3次元に拡張した. 講演者も2021年9月応用数理学会JANTセッションにて3次元数独解 の構成法を与えた. 数独の研究は多いが,3次元についてはあまり ない. そこで, 本講演では, 3次元数独解の同値な条件を定め, 3次元数独解を同値な数独解に移す作用素の特徴を述べる.

数論アルゴリズムとその応用(2)[9月10日 15:00-16:20 E会場]

  1. 矛盾探索を土台にしたガウスの前進消去法について
    〇 町出智也 国立情報学研究所
    歴史上最初のNP完全問題である充足可能性問題(satisfiability problem, SAT)を解く技術に, conflict-driven clause learning (CDCL) がある. CDCLは矛盾する節 (clause) と呼ばれる論理式の 探索を土台にしており, 変数割り当てにおいて矛盾が見つかった時 に原因と思われる新たな節を導出する方法である. 本発表では, CDCLを取り入れたガウスの前進消去法とその性能実験について述べる. 現時点では, 整数論の多重ゼータ値に由来する行列(ただし係数を mod 2 している)については計算速度が格段に速くなることを 確認している.
  2. 種数3における分解 Richelot 同種写像を計算するアルゴリズムとその応用
    〇 守谷共起 東京大学大学院情報理工学系研究科, 工藤桃成 東京大学大学院情報理工学系研究科
    Jacobi 多様体間の Richelot 同種写像とは,楕円曲線の2-同種写像 の種数2以上への一般化である.種数2では Richelot 同種写像の 理論や計算方法に関して多くがわかっており,近年ではそのグラフ 構造の解析や暗号応用への研究が進展している(桂-高島 2020, Florit–Smith 2021など).種数3以上の場合,2021年に桂-高島により分解 Richelot 同種写像の特徴付けが得られたが,写像の具体的 な計算などについて未解決な問題が残されていた. 本講演では,桂-高島の理論に基づき,種数3の場合に分解 Richelot 同種写像を明示的に計算するアルゴリズムを提案する. 超楕円の場合の計算量は定義体の2次拡大上の演算として定数時間 であり,非超楕円の場合は定義体の適当な拡大体上の演算として定数 時間である.応用として,種数3の超特別 Richelot 同種写像グラフの 部分グラフを生成するアルゴリズムを与えるとともに,時間があれば 高種数の超特別曲線の効率的探索に向けた展望なども述べる.
  3. Fast enumeration of superspecial hyperelliptic curves of genus four
    ○ 工藤桃成 東京大学大学院情報理工学系研究科, 大橋亮 横浜国立大学大学院環境情報学府, 原下秀士 横浜国立大学環境情報研究院
    超特別曲線は超特異曲線の中でも種数と標数を決めるごとに有限個しか ない曲線クラスであり,種数4以上ではその存在性の決定と同型類の列挙 は一部の標数を除き未解決である.種数4,5の場合には同型類の全列挙 アルゴリズムが存在するが,その計算量は標数pに関して最悪指数時間 である.一方で工藤-原下-HoweはANTS2020において,超特別になる可能性 の高い曲線クラスとしてHowe曲線に着目し,種数4のnon-hyperellipticの 場合にO~(p^4)の計算量で超特別Howe曲線を全列挙するアルゴリズムを提案した. ここでHowe曲線とは,分岐点を唯一共有する種数1の曲線二つの ファイバー積の特異点解消として定まる種数4のnon-hyperelliptic曲線の ことである.本講演では,工藤-原下-Howeアルゴリズムのhyperelliptic の場合におけるvariantを構成する.具体的には,種数2の曲線のファイバー 積の特異点解消として種数4のhyperelliptic曲線を構成し,そのうち 超特別なものをO~(p^3)で全列挙するアルゴリズムを実現する.
  4. 効率的な同種写像計算Square-root Vélu法における最適な添え字集合の探索
    ○ 大槻紗季 東京大学大学院情報理工学系研究科, 小貫啓史 東京大学大学院情報理工学系研究科, 高木剛 東京大学大学院情報理工学系研究科
    耐量子暗号の一種である同種写像暗号は,同種写像の高速化が研究課題 である.同種写像を効率的に計算する Square-root Vélu 法では,同種写像 の次数に比例するサイズの集合Sを,特定の条件を満たす2つの集合である 添え字集合を用いて表すことで高速に計算している.従来は,集合Sを 添え字集合で表現する際,表現可能となる集合のサイズが離散的である ため,計算量が大きくなる同種写像の次数があった.本研究では, 集合Sに冗長性を持たせより広い範囲で添え字集合を構成することにより, 同種写像計算の高速化を考察する.特に,暗号で利用される同種写像の次数 に対して,従来手法と本研究の方法で構成される添え字集合の中で最適 なものの探索を行った.

数論アルゴリズムとその応用(3)[9月10日 16:40-17:40 E会場]

  1. 有限体上の楕円曲線の積によるアーベル曲面のブラウアー群の位数計算
    ○ 片山瑛 立教大学, 安田雅哉 立教大学
    有限体上のアーベル曲面のブラウアー群とは2次エタールコホモロジー群の ねじれ群として定義されるものであり, アーベル多様体の不変量の一つ である.その位数については, Artin-Tateの公式によりHasse-Weilのzeta関数 を用いたネロンセヴェリ群との関係式が存在する. 本研究では上記の関係式を用いて, 与えられた二つの楕円曲線同士の積により得られるアーベル曲面のブラウアー群の位数を求めるアルゴリズムの紹介をする. 特に同種な通常楕円曲線同士の積, 超特異楕円曲線同士の積, 通常楕円曲線と超特異楕円曲線の積に対するブラウアー群の位数計算に関する実験結果を報告する.
  2. ρ法による超特異同種写像グラフにおけるサイクル探索
    〇 神戸祐太 三菱電機株式会社, 片山瑛 立教大学, 相川勇輔 三菱電機株式会社, 安田雅哉 立教大学, 横山和弘 立教大学
    超特異同種写像グラフにおけるサイクルは超特異楕円曲線上の自己準同型 写像に対応し, この事を用いた自己準同型環の決定法が知られている. 本発表では自己準同型環の決定問題を背景に, ρ法によるサイクル探索 手法を提案し, 既存の探索アルゴリズムとの比較や実験結果を紹介する.
  3. 構成的Deuring対応の計算可能性について
    ○ 神戸祐太 三菱電機株式会社, 安田雅哉 立教大学, 横山和弘 立教大学
    超特異楕円曲線とその間の同種写像は, Deuring対応と呼ばれる自然な対応によって, 四元数環とそのイデアルに対応する. この対応を具体的に求める構成的Deuring対応問題を解くにはKohel-Lauter-Petit-Tignol (KLPT)アルゴリズムが重要であるが, 実装上の課題が多い. 本発表ではボトルネックとなる基礎体の拡大の拡大次数の大きさを適切に選択・ 制限する改良を行ったKLPTアルゴリズムを用いて, 構成的Deuring対応の計算量評価と実験結果を紹介する.

問い合わせ先

島根大学 総合理工学部
青木美穂
aoki@riko.shimane-u.ac.jp