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各講演20分(質疑応答時間を含む)
○印は登壇者
NZMATHはPythonによる数論ソフトである。 第3.0.0版でPython 3に対応し、数論算法入門企画『NZMATHで「初等整数論講義(高木貞治)」を書く』(略称ENTTAKAGI)を開始した。 その後NZMATH使用開始を簡易化するPyPI実装を実現した。 この間NZMATHは主に互除法・素因数分解・合同式解法・円分多項式に関して機能を向上した。 何れもENTTAKAGIで数論算法入門ノートを記述する中で生まれており本発表で幾つか紹介する。 また数論・算法・英文三位一体自習教材としてのENTTAKAGIの効果は未知数だが考えられる可能性について問題提起する.
代数曲面上のベクトル束を調べる際に,向井茂により導入されたFourier-向井変換が重要な役割を果たしている。特に,Abel曲面やK3曲面の場合については,この変換がコホモロジー上に作用する様子を観察したり具体的な双有理写像を構成したりするにあたり、不定値2元2次形式$aX^2+2b√n XY+cY^2$とそれらへの算術群の作用を調べることが肝要となっている.ここで,曲面が主偏極であるという条件下では$n=1$となり,ガウスによる古典的な2次形式論と一致することに注意しておく.しかし,$n>1$の2次形式に関しては,類数公式や簡約アルゴリズムといった成果は十分に得られていない.そこで,歴史に倣い,代数幾何的な出自を一度忘れて,まずは正定値の場合から始めて理論を構築することを目指す.ここでは,$n$が小さい場合の簡約アルゴリズムを紹介し,ガウスにより提唱された予想群の類似について議論したい.
有限体上のAbel多様体のBrauer群は二次エタールコホモロジー群として定義される不変量の一つである.有限体上のAbel曲面のBrauer群の位数公式としてArtin-Tateの公式が知られているが、Artin-Tateの公式で使われているAbel曲面のNeron-Severi群の判別式が決定可能であるのは一部の場合に限られていることは数論アルゴリズムでの課題である.本研究では、有限体上の楕円曲線の積によるAbel曲面に対して、楕円曲線間の同種写像全体のなす群の基底・判別式計算を用いることで汎用的にNeron-Severi群の判別式を計算可能にし、Brauer群の位数計算手法を提案する.
超特別曲線は,代数幾何学における重要な研究対象であり,種数4の同型類の個数を決定する問題は未解決となっている.先行研究では,種数4の超特別な超楕円曲線のうち,自己同型群がKleinの四元群V4を含む場合はOhashi-Kudo(2024),6次巡回群C6を含む場合はKudo-Nakagawa-Takagi(2023)により,小標数での数え上げが行われてきた. 本研究では,先行研究で残されていた四元数群Q8を含むクラスにおける数え上げを行った.このクラスの超楕円曲線はHa:y^2=x(x^4-1)(x^4-ax^2+1)の形でかけることが知られている.従来の方法では,2つの超楕円曲線Ha1,Ha2に対して,一方を固定し,総当たりで同型判定を行う必要があった.本研究の貢献は,一方の曲線を固定することなくa1とa2の値のみから同型判定を行う手法を考案したことである.この結果より,自己同型群が四元数群Q8を含むような種数4の超特別な超楕円曲線に対して,代表元Haを列挙するアルゴリズムを提案する.また,各標数5<p<10000において提案手法を実装し,p=3,5(mod 8)の場合は同型類は存在せず,p=1,7(mod 8)の場合に同型類の個数は[p/48]となる予想が得られた.
連立代数方程式を解く問題は素朴な問題であり、幅広い分野で現れる。特に暗号では、連立代数方程式問題の困難性に安全性の根拠をおく多変数多項式暗号が、耐量子計算機暗号の候補として活発に調べられている。本講演では、有限個の解を持つ有限体上の連立代数方程式を解くことを目的とした、Macaulay行列を利用した求解アルゴリズムの基礎的な事実について述べる。具体的には、グレブナー基底計算や解探索を行うXLアルゴリズムの原始形となるアルゴリズムにおいて、目的の対象を出力するような入力の実行次数に関する基本事項を述べる.
UOV は非線形な多変数多項式からなる連立方程式の求解が困難であることなどに安全性の根拠を置く署名方式である。現在、NIST の耐量子計算機暗号標準化計画における追加デジタル署名方式プロジェクトの第 2 ラウンドに、UOV とその変種である MAYO、QR-UOV、SNOVA の合計 4 つが進出しており、活発に研究が行われている。UOV やその変種に対する鍵復元攻撃の一つに Rectangular MinRank 攻撃がある。この攻撃は公開鍵の表現行列に対してある種の変換を施した後、目標のランクとなるような行列の線形結合を見つける攻撃である。本研究では、Pebereau による特異点を利用した攻撃の議論を一般化し、UOV 系から帰着される Rectangular MinRank 問題が現在攻撃で利用される目標のランクより小さいランクも対象とできる場合があることを見る。結果的に、Rectangular MinRank 攻撃と Pebereau の攻撃を一般化した攻撃を提案し、この攻撃における UOV 系の安全性を解析する。
暗号の一手法に秘密分散法があり、ラテン方陣を用いた秘密分散法がある。正整数qに対して、大きさq×qの方陣(正方形)に、q種類のシンボル(文字や数字)を、どの 横の行も縦の列も異なるシンボルになるように配置したものを、位数qのラテン方陣という。互いに直交するラテン方陣の組をMOLS (Mutually Orthogonal Latin Squares)と呼び、MOLS から秘密分散法が構成できる(Dawson等(1993))。ラテン方陣(2次元)を高次元にする際の場合分けとして、タイプと呼ばれる指標がある。高次元(k次元)の超立方体は、タイプj(j=1,2,…,k-1)があり、(k,j)-cubeと呼ばれる。Lu and Adachi(2020)は、MOLS(2次元)の3次元への拡張として、互いに直交する位数q=p^2(素数pの2乗)の(3,2)-cubeの組の構成法を与えた。本研究では、正則行列や拡大体の性質を用いて、より一般的に位数q=p^h(素数pのh乗) の(k,k-1)-cubeの組の構成法を与える。
東京都立産業技術高等専門学校 ものづくり工学科
田中覚
stanaka@metro-cit.ac.jp